週刊みんなの法話

■一夜賢者の偈  辻本敬順〔本願寺派布教使〕
                           (みほとけとともに/本願寺の時間2005(H17)9月放送)

        
    今日は、「一夜賢者の偈」というお釈迦さまのお言葉を紹介しましょう。「
   一夜」は「一つの夜」と書き、「賢者」は「賢い者」、「偈」は「正信偈」の
   「偈」と書きます。この「一夜賢者の偈」は、原始経典の一つ「中部経典」の
   『大迦旃延一夜賢者経』(ダイカセンエンイチヤケンジャキョウ)に出ている詩です。
    話はこうです。お釈迦さまのお弟子にサミッディという修行者がいました。
   彼は王舎城の温泉精舎という所にいて、温泉の湯で体を洗い、体を乾かしてい
   ました。すると、そこへ天人が現れて、「『一夜賢者の偈』を知っているか」
   と尋ねました。サミッディが「知らない」と言うと、天人は、「是非、お釈迦
   さまの所へ行き、教えてもらいなさい」と言って、消えてしまいました。翌日、
   サミッディは早速、お釈迦さまの所へ行き、教えてもらったというのです。
        一夜賢者の偈
   
       過去は追うな。
       未来を願うな。
       過去はすでに捨てられ、
       未来はまだ来ない。
       だから、ただ現在のことを
       ありのままに観察し、
       動揺することなく、
       よく理解して、実践せよ。
       ただ今日すべきことを熱心になせ。
       明日、死のあることを誰が知ろうか。
       かの死神の大軍と
       会わないわけはない。
       このように考えて、熱心に
       昼夜おこたることなく励む人、
       このような人を一夜賢者といい、
       寂静者、寂黙者と人はいう。 (『阿弥陀経のことばたち』36頁)
 
    これが「一夜賢者の偈」です。「一夜」というのは、「一昼夜」、つまり「
   一日」ということです。今日一日、怠ることなく励む人、今日すべきことを熱
   心にする「賢者」を詠んだ詩です。
    お釈迦さまは、サミッディにこの偈をお説きなって精舎の中に入られました。
   そこで、サミッディは「この偈の解説をしてほしい」と頼んだのが、釈迦十大
   弟子の一人、「論議第一」と称されている大迦旃延でした。大迦旃延は、『仏
   説阿弥陀経』では「摩訶迦旃延」(マカカセンエン)と言われています。「論議第一」
   とは、お釈迦さまが説かれた簡単で省略した教えを広く分別して説いた第一人
   者、ということです。ですから、このお経の名前も『大迦旃延一夜賢者経』と
   なっているのです。
    さて、仏教は、この「一夜賢者の偈」のように“現在”を問題にする宗教で
   す。過去・現在・未来という言葉があります。前世・現世・来世などとも言い
   ます。しかし、仏教では時間というものを実体として扱わず、存在するものの
   変遷として捉えています。「過去は現在の原因であり、未来は現在の結果であ
   る」というところから、今、生起している現在こそ問題にするのです。仏教は、
   “今”“ここ”“私”を対象にしているのです。
    今世紀は「心の時代である」と、よく言われます。学校での宗教教育の重要
   性もよく指摘されています。中学や高校の教科書を見ると、宗教や仏教が記述
   されているのです。お釈迦さまも、親鸞聖人も出てきます。資料集には、『歎
   異抄』も「過去形」だということです。「今から何年前、だれが、こんな教え
   を説いた」という具合です。過去の事実については適正で客観的なのですが、
   仏教と現代社会との関連は大変薄いのです。
    『仏説阿弥陀経』というお経には、「極楽には、阿弥陀仏と申しあげる仏が
   おられて、今、現に、教えを説いておいでになる」と、説かれています。「今
   現在説法」とあるのがそれです。阿弥陀さまは、今、そそにいる私に向かって、
   働き続けてくださる仏さまなのです。
    仏教は「諸行は無常である」と説きます。だから、「一夜賢者の偈」は、過
   ぎ去ったことをクヨクヨ思い惑ったり、未だ来ぬことを取り越し苦労したりし
   ないで、二度とない今日という日がもっとも尊いことを、教えているようです。
    最後にもう一度、「一夜賢者の偈」を味わいましょう。
   
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