仏事いろいろ

2014年お彼岸《春》
◆まっすぐなお姿を子どもたちに  広中健次
                     (漫画家/長門市西光寺門徒)
                                 (本願寺出版社 平成26年2月1日発行)

        
   ◎『漫画 親鸞さま』を出版
    昨年12月、『漫画 親鸞さま』を出版しました。月刊誌「大乗」に2年間連載していた
   ものに加筆した形ですが、親鸞聖人のご生涯をトータルに漫画で描いた本が本願寺出版社か
   ら発売されるのは初めて。おかげさまで好評をいただいています。
    私自身、親鸞聖人を描くのが漫画家としてひとつの夢でもあったので、嬉しいのはもちろ
   んですが、ホッと肩の荷をおろしたような心境です。
    実在の人物を描くには、まず、どんな顔やキャラクターにしようかと悩みます。とくに親
   鸞聖人は偉大な方なので、気品や厳しさをどう表現しようかと気を遣いました。遺されてい
   るさまざまな御影(肖像)は、描いた人によってそれぞれ雰囲気が異なるので、はたしてど
   れが本当のお姿なのか・・・・私は私の親鸞聖人像をつくるしかありません。
    これまでに「大乗」で「恵信尼さま」や「歎異抄」を連載したので、親鸞聖人を描いては
   いましたが、今回はシリアスな人間ドラマになるようにタッチを変えてみたいと思いました。
   親鸞聖人のお顔の特徴はピンと跳ね上がった眉。あの眉を見る限り、かなり一徹な方だった
   のではないかと想像できます。私の漫画でも顔の輪郭からはみ出すくらいの勢いで眉を描い
   ていますが、これまでよりリアルな親鸞聖人像を感じていただけたのではないでしょうか。
    反省点もあります。旅姿の親鸞聖人を描くときにあえて笈(僧侶などが法具や衣類などを
   納める箱)を背負わないお姿にしました。きっとお弟子の性信が聖人のお荷物も背負ってい
   ただろうと思ったからです。しかし、親鸞展や親鸞聖人に関する本やアニメを見ていると、
   どうやらご愛用の笈があったようで、あれほどの方なのに自分の荷物は自分で背負われたの
   かと感心しました。
    また、「恵信尼さま」の連載のときの失敗ですが、越後に流された親鸞聖人が地元の人び
   とと田植えをされるシーンで、前に進みながら苗を植えているように描いてしまいました。
   私は漫画の仕事の合間に農業もしているのですが、機械での田植えは前に進むのでつい、う
   っかりしてしまったのです。発行後にわかって冷や汗がでました。今回の『親鸞さま』の田
   植えのシーンでは、もちろん間違わないように気を付けました。
   
   ◎手塚治虫にあこがれて
    私は山口県の北西部にある油谷町(現:長門市油谷)に生まれ育ち、現在も暮らしていま
   す。子どもの頃から絵を描くのが好きで、手塚治虫さんにあこがれて漫画家になる夢をもち
   ました。
    高校を卒業したら数年間、東京で漫画家のアシスタントをすることに決めていましたが、
   父親は大反対。日頃から門徒総代として親しくしていた西光寺の蓮清典住職(現在は前住職)
   に相談したらしいのです。すると住職は、若い者の才能を伸ばしてやるべきだと、逆に父親
   を説得してくれました。そして当時、湯谷町の助役をされていたので、町の広報誌に私の四
   コマ漫画を掲載してくれました。親父はその漫画を見て、東京へ出るのをやっと許してくれ
   ました。
    子どもの頃、たぶん降誕会のときだったと思いますが、学校行事として皆でお寺にお参り
   に行くことがありました。当時、「漫画ばかり読んで!」と親に怒られたり、漫画のイメー
   ジがあまりよくない時代でしたが、蓮住職は子どもたちを前にテレビアニメの話などをして
   いました。今から思えば子どもの興味を引くためだったようですが、「おもしろい大人がい
   るものだなぁ」と親しみを持ちました。
    本願寺とのお付き合いも住職が仲立ちをしてくれました。父親との約束通り20代半ばで
   帰郷して、地元紙や広告の仕事で漫画を描いていたときに、「本願寺新報」の子ども向けペ
   ージに「はりきりケン太くん」を連載させてもらったのが始まりです。
    「ケン太くん」は「本願寺新報」に連載されていましたが、あえて仏教的な内容ではあり
   ませんでした。それゆえに逆に仏教に対する興味がわいてきたときに、「大乗」から「おし
   えて大ちゃん」の連載依頼を受けました。浄土真宗の葬儀や法事、お仏壇の荘厳などについ
   て、主人公の大ちゃんが学んでいくという内容です。仏事のことは何も知らない私でしたが、
   だからこそ読者と一緒に学んでいこうと張り切りました。
    しかし、文字と違って絵はそのまま視覚に飛び込んできますから、なにより正確さが求め
   られます。お仏壇の香炉を前後逆にしたり、僧侶の輪袈裟と門徒式章を混同したり、間違い
   を山のように指摘され、描き直すのがとても大変でした。でも連載をまとめた『マンガ仏事
   入門』は現在もロングセラーになっていて、本当に嬉しいです。
   
   ◎いろいろな方のご縁に感謝
    『親鸞さま』もそうですが、私の漫画の原作をずっと担当してくれているのが岡橋撤栄さ
   んです。岡橋さんは「本願寺新報」の元記者。僧侶ですから仏事や本願寺の歴史に詳しいの
   は当然ですが、漫画好きということで初対面から意気投合しました。「おしえて大ちゃん」
   以来、20年ほどのお付き合いになるのでお互いの呼吸もぴったり。最近は、「ラストはお
   願いね」とメモ書きがあって、連載の毎回、オチをつけるのが私の役目になってきています。
    蓮住職、岡橋さんをはじめ、いろいろな方のご縁でいまの私があります。住職には若い頃
   に比叡山に連れて行ってもらったことがあり、そのときに「お前、親鸞聖人を描けよ」と言
   われたのを今でも覚えています。浄土真宗の家庭で育ったとはいえ親鸞聖人について何も知
   らないときでしたから、「そんなこと言われても・・・」と困りました。その後も何度か「
   親鸞聖人を描け」と住職にはっぱをかけられましたから、今回の『親鸞さま』はお世話にな
   った住職との約束がやっと果たせたというわけです。
    もっと早い時期に描ければよかったかもしれませんが、私がいまの年齢になっていたから
   こそという面もあると思います。『親鸞さま』を描きながら一番印象に残ったのが、息子の
   慈信房(善鸞)を義絶するシーン。私も息子がいますから、本当におつらかっただろうなと
   力が入りました。
    遠い鎌倉時代にまっすぐに強く生き抜かれた、親鸞聖人のご生涯を描くことができて、本
   当に漫画家冥利につきます。
    漫画は、子供たちにも楽しんでもらえますから、「親鸞聖人ってどんな人?」を知ってい
   ただく入門編になったと思います。親鸞聖人は、知れば知るほど新たな魅力に気づかせてい
   ただけるお方。私自身、聖人のお姿をこれからさらに深く掘り下げて学んでいけたらと思っ
   ております。